芝生観察日記 第53話

芝生観察日記の第五十三話です。
平成25年8月23日(金)

日産スタジアムが開場して初めてとなる3週連続のコンサートが終わりました。8月4日のももいろクローバーZコンサートでは、芝生内にアリーナ席を設けない会場レイアウトだったため芝生へのダメージはありませんでした。サザンオールスターズの際には、前回ご紹介した通り、初めての試みで使用した芝生保護材の効果により39℃を超える猛暑の中でも芝生のダメージは比較的軽くて済みました。
そして、17日、18日の両日に亘って開催された東方神起のコンサート。気温自体はサザンの時より3~4℃低めでしたが、35℃に迫る厳しい猛暑の中、今回は全国のスタジアムコンサートで一般的に使用されているテラプラスという芝生保護材を使用しました。
元々、芝生をアリーナ席として使うコンサートの場合、どこのスタジアムも芝種や環境の違いはあるものの、芝生にはそれなりに大きなストレスがかかり、最悪の場合は張替えのリスクも覚悟して開催判断をします。
下の写真は、サザンオールスターズと東方神起の後の芝生の定点比較です。

8/12 コンサート前の状況 及び コーナー付近を上から撮った状況
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8/19 コンサート後の状況 及び コーナー付近を上から撮った状況
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いかがでしょう。芝生の痛みが伝わるでしょうか。芝生保護材の違いは芝生に与える影響の一因としてありますが、それに加えて今回は2週連続で芝生にストレスがかかったことでダメージが嵩みました。
また、今回テラプラスを撤去して驚いたことは円形の足型部分の葉が赤く焼けていたことです。
通常、コンサートが終わって2、3日経過した後でこのように赤くなることは想定される状況でしたが、今回は夜中に撤去したその段階で赤く焼けていた状況は初めての経験です。それだけテラプラス内が熱かったのだろうと推察できます。確かに8月に入ってずっと30℃を超える厳しい暑さが続いており、夜間温度も下がらない状況で敷設したテラプラス内は50℃を超えていたに違いありません。
コンサートとコンサートの狭間の芝生管理作業も想ったようにできなかったことや天候など色々な要因が積み重なって想定よりも芝生に重いダメージが残りました。
夏場のコンサートにおいては、芝生保護材を被せることで日照阻害や蒸れによる過湿障害、保護材接地面の踏圧障害などが芝生にダメージを残します。また、これに加えて我々が計算しきれないものとして、冬芝(ライグラス)の衰退による裸地化です。
下の写真は、南側のゴール前の状況です。ゴール前は、そもそも混戦で激しく荒れる場所なので芝生自体の状態も決して良好ではなく、大きな大会前などに適宜張替えを行うことがあります。そのため、張替えを行った場所とそうでない場所では芝生の根の下り方にも差があり、激しい利用が続くとその根の差が利用に対するストレス耐性となって正直に現れます。
 
コンサート後アウェー側ゴール前の状況 と 写真の近景状況
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上記、ゴール前の張替え状況 と 張替え後の状況
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土の中に深くまで根を下した周りの芝生は、芝生保護材を撤去した後の回復状況がある程度想定できますが、一度張替えた箇所は根が短く、同じストレスを受けた際のダメージの度合いが想定し辛いのです。そのため、芝生保護材を剥がしてみてビックリというケースが良くあります。
今回は、正にそんなケースの最たる状況で、上の写真は芝生保護材を被せた結果、ライグラスが枯れて衰退し、裸地となった場所の張替え前後の写真です。
気が重い3週間を振り返ってみると、今年の猛暑の中でライグラスがここまで残ってしまっていることは想定外であり、コンサートを迎える前までに全面ティフトンに切り替わってくれていれば張替えの必要はなかったという悔しさが残ります。
年々、地球温暖化のせいか四季の変化が著しい天候になっている気がします。それに伴い、芝生の管理も先が読めない難しさを感じています。
今回のコンサートでは、写真のような裸地がフィールドの所どころに点在してしまいました。首位となったF・マリノスの大事なホームゲームを1週間後に控えて、芝生の生命力に期待する一方で我々もできる限りの策を講じていきます。
競技場の芝生として本来の使い方に支障を来しては本末転倒ですから。