芝生観察日記 第107話

芝生観察日記の第百七話です。

令和二年9月29日(火)

<~ Road to 2019&2020 ~>

 

 9月もあと2日となりました。「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、今年はお彼岸を待たずに秋を迎えたような気がします。8月が猛暑だった影響で、今年の夏は記録的に暑かったという印象は残っていますが、夏自体は8月の1か月間だけだったように感じました。

 連日の雨模様で気温が上がらず、日照時間も少なかった影響で暖地型芝にとっては大変厳しい長梅雨となりました。ようやく梅雨が明けたと思ったら連日30℃を超え、月の大半は35℃を超える猛暑日が続き、生育が落ち込んでいた暖地型芝はみるみる勢いを増して、ハイブリッド芝に張替えて以来、最も良い状態になりました。しかし、それも束の間でした。9月に入ると秋雨前線が活発になり、再び雨が多く、気温は低下し、日照時間も減少してしまいました。

 この観察日記でも試合前後の状況をお伝えしていましたが、週二回ペース行われる試合によるダメージからの回復が遅れ、暖地型芝のセレブレーションはまるで10月中旬くらいの生育状況となり、23日に行われた仙台戦では雨の中の試合という悪条件ではありましたが、発根状態が悪い芝生はあちらこちらで芝片が飛び散る厳しい状況でした。

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 そして、ようやく昨日辺りから秋らしい陽気となり、爽やかな日差しを受けてセレブレーションの顔色が良くなったと思ったのも束の間、最低気温が20℃を割る日が続くことで緩やかに冬に向けた準備に入ったようです。つまり越冬に向けて貯蔵養分を蓄積し始めているため表面的な伸長が鈍くなりました。

 夏が短かったことで今現在の貯蔵養分が少ない状態で、来春の萌芽に必要な養分を秋にどれだけ蓄えられるかが課題です。既に、スタンドの影響で日照時間が6時間程度の部分もあり、難しい状況です。

 そんなセレブレーションを保護する目的もある、オーバーシード(種蒔き)を本日行いました。

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 播種は例年と同じスピードシーダーを用いて行いました。先の尖ったスパイクが芝生に小さな穴を空けた後から種を落とし、穴の付近に種が落下することで発芽、発根をし易くする仕組みになっています。

 種は、ペレニアルライグラス(以下:ライグラス)の「プロント」です。発芽が早く、濃緑で針のようにピンと直立するので暖地型芝に覆い被さって生育を阻害し辛い性質を期待して採用しています。

 オーバーシード用の種には、数多くの品種、銘柄がありますが、ベースとなる暖地型芝との相性や生育環境、緑色の色合いや葉の太さなど、様々な要因を考慮してグリーンキーパーが決定します。 

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 ライグラスの種の大きさは、直径約5㍉程度です。1g当たり500粒程度と言われています。

 今年の播種量は、1㎡当たり30gとしました。スピードシーダーの幅に合わせて目印のロープを移動しながら、蒔き斑ができないよう縦横二十に重ねて蒔きました。

 播種量の決定も勿論グリーンキーパーが行いますが、蒔く量を増やせば冬の間ジュータンのような美しい芝生になります。

オーバーシードは一時的に暖地型芝(セレブレーション)と寒地型芝(ライグラス)を共存させることになります。同時に、生存競争の始まりでもあります。

オーバーシードは、生育時季が異なる2種類の芝生の良い所を引き出し、お互いに共存共栄させる技術ですが、水分、養分、日照などお互いに取り合い、せめぎ合っているのです。

播種する量はいずれの芝生にとってもリスクとならない設定である必要があります。特に、ベースとなる暖地型芝の萌芽を阻害する要因に成りうるライグラスの播種量の決定はどうしても慎重になります。

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 30gを播種した状況です。携帯ばかり目立って種の存在が分かり辛いですが、これでも春までにはライグラスの美しい緑になります。とはいえ、あまり良くし過ぎるとセレブレーションの萌芽を阻害するのでいい加減で調整していきます。3~4日で発芽するのでまた報告します。